会長挨拶
 
鈴木文彦岩手県人連合会 会長
  ご 挨 拶
 あけましておめでとうございます。
 本来であれば、このあとに年頭の抱負などを述べ、ふるさと岩手をめぐっての話題とともに、二月の「新年の集い」に元気でお目にかかりましょう、と結んで挨拶となるのですが、残念ながら今年はそうはなりません。
 この異例ぶりの一端は、昨年六月の岩手県人連合会ホームページに載せてありますが、以降の新型コロナウイルスの猛威は衰えず、第二波、第三波と押し寄せて終息の気配も見せておりません。秋季開催が多い各加盟団体の総会・懇親会も見送らざるを得ない状況になりました。
 そして感染ゼロが大きなニュースになったふるさと岩手も、アッという間に三〇〇名を超える憂慮する事態になっています。すべてが予測不透明な闇の中でも、われわれには3・11東日本大震災から十周年を迎える今年、被災を忘れず復興支援を新たにする、より一層のふるさと愛がのぞまれています。その意味でも往来の安心が一日でも早く確保できるように願ってやみません。
 望郷といえばすぐに石川啄木を思い浮かべますが、近くでは藤沢周平をあげる人が多いでしょう。その熱烈ぶりは、故郷庄内鶴岡をモデルにした「海坂藩もの」の小説が八十五篇、全エッセイの約四分の一にあたる七十数篇がふるさと讃歌です。
 天職に思えた教師の道を結核菌で閉ざされ故郷に戻れなかった事情に加え、新婚間なしに妻を病魔におかされて喪った絶望のなかで、一条の光を求めて小説にすがったといいます。そんな逆境から生まれたのが「普通が一番」。この藤沢家の信条は単なる言葉以上の重みを与えてくれます。日々日常を丹念に生きることを示す「普通」は精進を意味します。混沌とした現在、ますます輝きを増す言葉です。
 このように作家は言葉の魔術師といわれ、格言、名言を生む宝庫ですが、私が出会った作家の、お気に入りの言葉といえば———
・「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」(井上ひさし)
・「気の合う人とは浅く契れ。人間同士、深く契らないってことは大切なことなんですよ、長く付き合うには」(五木寛之)
・「本当に大切なことは、誰も口に出して言わないものだ」(向田邦子)
・「鈍感なのは素晴らしいことなんですよ。傷ついてもすぐ立ち直れるし、いろいろなことを言われてもすぐ忘れられる」(渡辺淳一)
・「人生、9勝6敗でいいんだ。勝ち続けるわけにはいかないんですから、いかに上手に負けを拾うか」(色川武大)
・「ただしいことを信条にしたらあかん。どうせ、でけへん、そんな高尚なこと。たのしいことをしたらよろし。たしい、と、たしい、一字ちがいで、えらいちがいや」(田辺聖子)
 いかがでしたでしょう。コロナ禍の重苦しい気分が一瞬癒やされ、ニヤリとしてくだされば幸いです。

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